それが秘訣だ?むしろどうすればできるのかが極意へのカギだった

脳科学の発達は、リラックス状態にさまざまな効果があることを明らかにしてきています。いわく幸福度を高めるだけではなく免疫力を強化します。さらには健康そのものを増進する効果が確認されました。

そのときの脳波は何かに集中していない状態を示しているそうです。つまり脳波がアイドリングしているときには身体もアイドリングしているのですね。脳と身体のアイドリング状態が健康に貢献するので大切なスキルになるといえます。

貧乏揺すりにはリラックス効果が認められます。あまり積極的な意味では歓迎されませんが、言われてみれば、ある種の緊張状態を強いられた人がいつのまにか貧乏揺すりをしているのを見かけるのに気づかれるでしょう。貧乏揺すりで、極度の緊張状態を回避しようと無意識に身体は動きます。

長時間、同じ姿勢を維持することで生じる障害の一つとしてセカンドクラス症候群と呼ばれて知られるようになりました。身体は動かないことで大きなストレスを受けます。床ずれも同じ理由によります。病床で辛い思いをする床ずれも動かせない身体の結果です。

これらの現象は、心臓と身体とが同期していて動かない身体は血流を妨げるので起こります。知り合いの東洋医者は患者が意識する前に身体が反応していると言います。

つまり深くリラックスするために、人間の身体は動くことが必要だという結論になります。もちろん、このときに無酸素運動のような激しい運動は不要です。むしろ制御された小さな運動が効果的に作用します。

太極拳で楽に動く身体を手に入れるためには、リラックスした状態で動く身体を手に入れるのがさしあたり目標になるでしょう。しかし、残念ながら力を抜くのは難しい。しかも、指導者たちは意識することで力を抜くことを求めます。ですから疲れ果てて力が入らない状態は避けなければなりません。

現在のさまざまな教室では、何をどのように意識すれば良い結果を得られるかが明らかにされていません。力を抜こうと思えば、抜けるだろうというのがその思いでしょう。

実際問題は逆を向いています。職場のみならず、家庭においてもさまざまなストレスにさらされ続ける結果、いつもどこかに力が入ったままになり、筋肉は緊張収縮して血流をさまたげます。人によっては筋肉が骨のように固くなってしまっています。

到達した状況の表現ではなくメソッドが必要だと強く思います。そのことを指摘しても事態は変化しません。練習の度に同じ指導の繰り返しになったままです。ですから、正解がわからない状態で挑戦し続けるタフネスが必要になります。

手間と時間を掛けて登り切った後で、登頂した山が正しいのかを確認するようなものです。これでは、必要な身体を獲得する前に、心が折れてしまいます。

でも太極拳を長らく教えている先生だって実は正解が分からないという話を合宿の夜に聞いたのは衝撃でした。多くの指導者が自分でも身体的に感覚が不正確だというのです。

体感しなければ感覚を再現できないのが当たり前ではないでしょうか?先生たちは誠心誠意自分たちが教えてもらったことを伝えてはいるのです。しかし、太極拳の習得は身体感覚に頼った運動の学習です。

説明される理念だけではなく、感覚して学ぶことがメソッドが大切なはずです。ある日、体験参加にやってきた学生が私の手を持って声を上げました。「なんて柔らかい!」と。

私が心がけている指導はまず、驚きから入ることです。驚きは体験から生じます。そしてその再現のための要件の必要性を感じるのです。この必要性を感じるという段階をとても大切だと思います。知らずに何年も無駄にしないために、体験のメソッドが必要です。